ガラスは何故脆くて壊れやすい?
ガラスというと,脆くて壊れやすい物質の代名詞,というイメージを持っている人が多いのではないでしょうか?でも,本当にそうでしょうか?
そもそも物質を「壊す」ということは,どういうことでしょうか?物質は原子の集まりです。「壊す」ということは,この原子の集まりをバラバラにする,つまり原子同士の結合を切るということに他なりません。
1枚の紙を破いても,割り箸を折っても,それは物質を壊していることになります。鉛筆で字を書いても,意識せずにそれは鉛筆の芯の先端を微小に破壊しています。これらの物質は,人の力で容易に壊すことができます。では,同じ大きさのガラスを想像してみて下さい。それほど簡単に壊すことができるでしょうか?
実はガラスを構成する主成分であるSiO2の結合を切るには,結構なエネルギーが必要です。紙や木,鉛筆の芯(この場合は粘土と黒鉛の複合体ですが),に比べると,ガラスははるかに壊しにくいのです。にもかかわらず,ガラスは脆くて壊れやすいと感じるのは何故でしょうか?
その理由は,ガラスが壊れる様式にあります。紙や木に比べるとガラスは固く,力をかけても容易には変形しません。しかし,大きな力がかかると,いきなり破壊します。これが脆性と呼ばれる特徴で,ガラスが脆い所以です。
また,ガラスは複合体である鉛筆の芯などと異なり,単相の物質ですから,微小な破壊というものが起きません。したがって割れる際は一気に派手に割れてしまいます。さらに,表面に傷がついていると,そこに応力集中が生じるため,破壊に必要な力はぐっと減少します。ガラス板を切断するには,ダイヤモンドカッターで「切り線」を入れて,それに沿って簡単に亀裂を進展させて,切り離すことができるのはこのためです。
これらの経験から,ガラスは脆くて壊れやすい特徴をもっていると感じられるのです。つまり,ガラスは意外に強いのに「脆い」物質です。ガラス科学,工学の世界では,このガラスの脆さを克服する研究が今も続けられています。
(東京理科大学 前田敬)